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空飛ぶ色いろnatsuno07

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2019.12.27  胡沙の花・ほかー八木義徳全集より 


書影
(オンマウスで、箱の裏。)
八木義徳全集 1
(福武書店 1990/3/15)

八木義徳は明治44年(1911年)生まれの作家です。
結婚して満州で仕事を持ちますが、
妻の神経衰弱をきっかけに帰国。
その後、召集されて再び大陸へ。
終戦を迎え日本に帰ってきて見ると
3月10日の東京大空襲で妻子は死亡。
そうした壮絶な日々を描いた作品が全集の1巻に載っています。

画家の香月泰男と同い年で、
詩人の石原吉郎の4つ歳上。
第二次世界大戦の前線にいたのは、
こうした人生の真っ盛りの男の人たちだったのだと
改めて思いました。

「帰来数日」「母子鎮魂」「相聞歌」には
ひとりの「日本兵」が、
誰でもない「自分自身」に戻り
妻子の死を知る時の
引き裂かれるような痛みと哀しみが描かれています。
この終戦直後を書いた作品のあと
満州での新婚時代をえがく
「胡沙の花」が載っています。
円満で幸せな夫婦とはいえなかった二人
特に満州での妻の様子は相当痛ましいものがあります。

物語はこれで終わったのである。
わたくしにはこれ以上書くべきことはもう何もない。


このような言葉で終わっていく「胡沙の花」ですが
夫婦にとって苦しかったはずのその時代さえも
どこか「花」があるように感じられてしまう。
それほど、終戦直後をえがいた3つの作品の哀しみは
強烈なものがありました。

石原吉郎は「望郷と海」の中で、

ジェノサイドのおそろしさは、一時に大量の人間が
殺戮されることにあるのではない。
そのなかに、ひとりひとりの死がないということが
私にはおそろしいのだ


と書いています。その見えていなかったひとりひとりの死に
ひとりの人間として直面せざるを得なかったたくさんの人々がいる。

戦争とは、家が焼け、人が死ぬことではなかった。
それは自分の家が焼け、自分の妻や子が死ぬことであった。
 (母子鎮魂より)

この本を開くまで、まるで知らなかった作家でした。


関連記事 in my blog: 月下美人,  画家の詩、詩人の絵 2 明るい午前の自然が, 
聞かせてよ、愛の言葉を


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2019.11.16  希望の国のエクソダス 


IMG_ (238)
希望の国のエクソダス
(2000/7/20 文藝春秋)
村上 龍

1998年から2000年にかけて文藝春秋に連載された小説です。
20年前にすでに「教育」と「経済」は危機感に満ちていたのかと
何をいまさらな遅れて来た読者でした。

村上龍の小説は、
画家のフランシス・ペーコンの絵のようだと思うのですが、
この小説はどちらかというと
リキテンシュタインです。
主人公の恋人由実の雰囲気のせいか。
吹き出しの中に
全部大文字で、EVACUATE IMMEDIATELYとあるような。
でも読み進むにつれて
小学生向け学習マンガのような感じもちらほら。
当時46歳の著者が日本の10代に向けて
「危機感」を持てという警鐘を鳴らしつつ
彼らの未来に「期待」を抱いてもいるからなのか。
ちょっと説教臭さと気弱さが感じられたりもしました。

この小説が出版された1年後、
ニューヨークでの同時多発テロがありました。
そしてその10年後には東日本大震災と
福島原発の事故が起きました。
その後も自然災害が続いています。
ネット犯罪の闇も底が深くなっています。
「この国には何でもある」という小説の中の
10代の少年のことばが空しく響く20年後です。

これはどうでもいいことなのですが、
この本は20年前に母が買ったものです。
書評にある本をすぐ買うというミーハーな母でしたが、
当時はとても話題になった本だったのだと思います。
まだもうちょっと母が元気だった頃
この本を本棚に見つけて借りてきたのですが、
通勤電車で読むには重い・・という理由で
ずっと読まずにいたものをようやく読みました。
「これ面白かった?」と聞いた記憶はあるのですが、
母が何と答えたのか覚えていません。

関連記事 in my blog: フランシス・ベーコン展


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2019.06.15  月下美人 


gekkabijin201906.jpg
月下美人
(文春文庫 2001/10/10)
吉村 昭

昭和2年生まれの著者はわたしの母と同世代で、
終戦直後にハイティーンだった人です。
新潮少年文庫の「めっちゃ医者伝」が面白かったので、
早速読んでみることにしました。
まずは電車の行き帰りに読みやすい文庫本。
きれいなタイトルなので、どんなかなと。

この本は短編集です。表題作の「月下美人」は
「逃亡」という作品のモデルとなった人物と著者のエピソードで
画家が絵を描いている自分を描く「自画像」のような作品です。
とても硬質な印象で、エッチングのようでもあり、
画質のざらっとしたモノクロ写真のようでもあります。
「月下美人」は花の名で、表紙の絵の通りの
白い菊と睡蓮を合わせたような花を
夜の数時間だけ咲かせ、香りもいいそうです。
めずらしい花が咲いているところを見たいと思う気持ちと
数奇な人生を送った他人に関心を抱くということが
重なっているのか・・・。

他の作品も私小説で
脚色せずに語ろうとするあまりに陰気になってしまう
自分のことなのに淡々とし過ぎていて、ちょっと怖い
そんな感じでもあります。
ただ「表」の作品であるノンフィクションの代表作を
知らずして、裏を読んでるから
「暗く」感じるのかもしれないとも思うのでした。

8作品のうちの最後の3作
「夢の鉄道」「欠けた月」「冬の道」
はどれも終戦直後の東京が出てきます。
食料も住居も衣類も不足していた時代
医師不足も深刻だったようです。
米や麦を届けてくれる人しか診ないのだと
急患を断る近所の医師、
川を隔てた遠い街まで、自転車を漕いで
往診してくれる医師。
こういう極端な大人たちの背中を見ながら
終戦直後の世に生きている18歳の青年のごく私的な物語。
読み終えても消えない余韻がありました。

関連記事 in my blog;: めっちゃ医者伝


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2019.03.22  希望荘 


kiboso201903.jpg
希望荘
(文春文庫 2018/11/10)
宮部 みゆき

杉村三郎が主人公のミステリー4作目です。
出版社のサイトで著者のインタビューを読んでみたら、
海外ミステリーから「インスパイア」されている
部分があるそうなので、きっと詳しい人は
なるほどなぁと思うのかもしれません。
そういうことは全くわからない私は、
ミステリーそのものよりも・・・
「杉村三郎の結婚に反対の親族・その4」みたいな気分で
「この結婚はどうなんだ」などと思っていました。

とか何とかいいながらも宮部みゆきの本は
読みたいので、ずっと読んできたのですが、
「希望荘」を読み始めたら、杉村三郎がなんと
離婚をしているではないですか。
前作をふりかえってみると、たしかに
そんな展開もあったような。
もーすぐ忘れちゃうので、やだやだです。
とはいえ親族その4みたいな読者としては、
もちろん、つらい部分も多いだろうけれど、
良かったのではないかと思ったりするのでした。

「希望荘」の他に3篇の作品が載っています。
東日本大震災後の東京が舞台ですが、
25年くらい前の東京が舞台の
「淋しい狩人」と少し似た感じになっていて
読者的にも、帰ってきたような気持ちになりました。
日常にふと感じる違和感が
とても重かったり深かったり酷かったりする
何かにつながっているのです。
杉村三郎は探偵ですが、
「病」の原因を丁寧に発見してくれる
信頼のおける「町医者」のような感じでもあります。

4つの作品はどれも
かなり怖いものを秘めているミステリーです。
どの怖さをいちばん怖いと感じるのでしょうか。
わたしは、「砂男」がわかりやすく怖かったけれど、
じわじわと後まで残る感じで「聖域」も怖かったです。


関連記事 in my blog: 淋しい狩人


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2019.02.12  風が強く吹いている 


kazetsuyo201902.jpg

たどりつきたい場所があるわけでもないのに
毎日毎日走り続けてしまう。
そういう人間のなかに、走るという行為に対する好悪を
断言できるものなどいるだろうか。


正月休みを終えた電車の中で読み始めて
数ページもしない箇所で、
これから何がどうなるかもわかっていないのに
うるっと来てしまいました。
仕事は好きだからやっている、嫌いだからやめる
とかいうのとも違う。といってお金がもらえればいいのとも違う
生きるということばに置き換えてもいいかも。
「生きること」が好きか嫌いかなんて言えない。

故障を抱えた指導者が、
ぐれていたり、拗ねていたりする才能のある人を軸に
素人集団をたたきあげる
リトルリーグだとか、タップダンスだとか
ハリウッド映画では
たびたび見かけるストーリのような気がします。
「やってみなきゃわかんないじゃないか」
そんな愛と希望と勇気を与えてくれる話、という大筋は、
だいたい勝敗がみえているという
マラソンの試合のようなものかもしれません。
それだけなら、ありがちな話ですが、そうではない。
そこにその時その状態で
彼らがどう走ったのかという物語が
とてつもなく面白いのでした。

現実に生きるということは箱根駅伝のように
その区間に適しているだろうと思われた走者として
走っているわけではありません。
歯をくいしばって走った先で、歓声が待ち構えているわけでもない。
彼らが大人として、出ていく先の「社会」では
東体大の榊のような考えの方が優勢です。
でもまるで選択の余地がないわけじゃない。
その区間をどう走るのか
そこに「風が強く吹いている」というタイトルがぐっときます。

幕末の志士たちが登場すると必ず
「風雲急を告げる」なんてことばが
枕詞みたいにくっついてきますが、
伝説を生んだ青竹荘
歴史の中にはそういう場所や空間や出会いがあるものなのか。
青竹荘の大家さんと犬のニラも愛しいです。
レースの伴走をしている車から大家さんが
「碁というものは・・」と語りだすシーンは大爆笑でした。

関連記事 in my blog: 舟を編む


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2019.02.09  琥珀のまたたき 


kohaku201902.jpg
琥珀のまたたき
(講談社文庫 2016)
小川 洋子

表紙に惹かれてジャケ買いしましたが、
読んでいて、息苦しかったです。
世の中のたくさんの小川洋子ファンは、
何を言ってんのこの人と思うかもしれませんが、
下記は正直なわたしの感想です。

三人の子供を古い別荘に閉じ込めた母親の
「魔犬」のつくり話によるマインドコントロール。
作家はインタビューで、
3人の子供たちの輝きを感じてほしいと語っていました。
たしかにどんな場所においてもどんな状況下にあったとしても
生命の営みというものに輝きというものがある
・・・・・
のかもしれないけれど、
生きた人間がつくり話の恐怖に支配され閉じこめられるなんて、
美しかろうが、輝きがあろうが
緊急避難案件としか思えませんでした。

だから5歳のときのままの半ズボンをむりやりはかされ
ぼろぼろの鬣を縫い付けた、
幼児サイズのTシャツを着せられた異様な少年を
水道の検針にきた女性がみつけるというシーンに
どれほどほっとしたことか。
10歳になった少年が、1匹の猫の命を気にかけたこと
女性が、一人の少年をほおっておけなかったこと
その出会いがほころびとなって
「つくり話」が崩壊していくシーンです。

「それは本当ではないけれど、空想は心を自由にする」
という意味は何となくわかるけれど
「つくり話」に囚われるということを安易に美しいと言いたくはないし、
わたしが思う美しさとは違うなと思うのでした。

最近虐待で亡くなった少女のニュースを聞いたほとんどの人が
助けてあげたかったと考えたと思います。
その数は何千万人にも及び、
そんな多くの人の思いがあっても
現実に助けることはかなり難しいことです。
子供にとって家庭は安全地帯にもなれば
地獄にもなるということ、
この小説は
その恐ろしさをひしひしと感じさせるものでした。

関連記事 in my blog: ことり


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2018.06.26  雁の寺 


gannotera201806.jpg
越前竹人形 雁の寺
(新潮文庫 1969/3/20)
水上 勉

先日読んだ「ものぐさ太郎の恋と冒険」には、
乱世が生み出す鬼が出てきましたが、
「雁の寺」もまた、戦争に向かっていく昭和の混乱期
貧しい生まれの少年が、
抑圧され虐待されたあげく鬼となる作品です。

横溝正史と松本清張を足して二で割ったような
昭和っぽいミステリー風小説。
面白いか、と聞かれるとう~ん、とうなってしまいますが、
古い映画を見るように
当時の空気感のようなものが感じられるところが
面白いと言えるような気がします。

雁の寺で起きたできごとの「目撃者」となるのは、
寺の和尚に囲われて生きる色っぽい女性です。
色っぽいということが、この女性の生きるすべ。
戦前の女性は男性の庇護なしに生きることが出来なかった
それもなかなかに不気味だし、異様な感じがします。

小説が書かれた昭和30年代の日本でも、
まだまだ女性が「自立」して生きるのが難しい時代でした。
働いていたとしても、会社の女の子、職場の花
結婚までの「腰かけ」がせいぜい。
背広を着て、列車の中をタバコの煙だらけにして
日本全国を飛び回り、猛烈に働いているのは男たち。
そういう男らしさや、女らしさがあたりまえだった時代は
すっかり遠のきました。
その一方で、今を生きる人間には今目の前の問題がある。
犯罪の手口も、犯罪の動機も。
「らしさ」の定義は変わっても、人のこころの闇は
あいかわらず不気味でありつづけるようです。

昭和36年、水上勉はこの作品で直木賞を受賞し、
翌年に「飢餓海峡」を執筆しています。

関連記事 in my blog: 仏ヶ浦 飢餓海峡


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